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事例紹介:作手小学校・つくで交流館

学びと交流の場が共存する、地域の未来を創る「共育」の拠点。


 2017年4月、 新城市作手地区(旧作手村)の4つの小学校が統合してできた「新城市立作手小学校」の新校舎と、地域の活動拠点「つくで交流館」を合築した複合型施設が供用を開始しました。これにより、子どもたちの学びの場と市民の交流の場が共存する「共育(ともいく)」の拠点となります。
 そこで、設計者選定プロポーザルにて選定された株式会社東畑建築事務所の瓦田伸幸氏と久保久志氏に、利用者協働型の設計・施工プロセスと建築計画についてうかがいました。


向かい合う配置の交流館(左)と小学校(右)。「中庭」を緩衝帯として互いの活動の様子を垣間見ることができる。 写真提供:株式会社東畑建築事務所


多様なワークショップの成果を建築のプロセスに反映。

株式会社東畑建築事務所 執行役員 名古屋オフィス代表 瓦田 伸幸 氏

株式会社東畑建築事務所 設計室 主任技師 久保 久志 氏


 愛知県新城市では、学校・家庭・地域のあらゆる人が、ふるさと新城の「三宝(自然・人・歴史文化)」を活かし、共に過ごし、共に学び、共に育つ、「共育(ともいく)」という教育理念を掲げています。子どもだけでなく大人も実践する共育は、地域のネットワークづくりや交流に貢献し、やりがい、生きがいのあるまちづくりにつながるものです。そんな共育の場として新城市作手地区に誕生したのが、「新城市立作手小学校」の新校舎と地域の活動拠点となる「つくで交流館」です。


周囲の山並みになじむ外観デザイン。 写真提供:株式会社東畑建築事務所

 私たちが重視したのは、この施設の利用者である子どもや地域住民がどんな使い方や活動がしたいのか、その声を丁寧にすくい上げながらハードに落とし込んでいくプロセスでした。そのため基本計画から実施設計に至る各段階において、地域住民、教職員、児童を対象にしたワークショップ(以下、WS)を実施しました。地域住民と教職員のWSには互いの代表者が参加し合うことで、議論の共有に配慮し、さらに、コミュニティ支援やまちづくり、ソーシャルデザインを専門とするプロをオブザーバーとして迎えることで、新しい視点を提示しながら内容に厚みを持たせています。


[左]地域対象のWS [右]子ども対象のWS 写真提供:株式会社東畑建築事務所(左右共)

 基本計画・基本設計では「学校設立準備会」と「総合整備委員会」という2つの組織が検討を進めていましたが、この内容にWSでの検討結果を付加しました。実施設計においても、対象が異なるWSをきめ細かく行い、教育学・建築学の有識者と協働して詳細を検討するWSや個別のヒアリングを実施しました。通常、基本設計までで終わることが多いWSを実施設計の段階まで広げたことで議論が深まり、利用者の皆さんとともに満足度の高い施設づくりを実現することができました。WSの内容は定期的にニュースレターとして全戸に配布し、参加していない方の当事者意識の醸成にもつなげています。


「中庭」が共育を促す、作手の新たなシンボル。

 今回のプロジェクトにあたり、私たちは学校と公共施設の合築事例をいくつか見学しました。多くは学校の中に公共施設が入っており、動線が交錯してセキュリティやプライバシーの点で問題があること、何より強制的に距離を近づけても交流が促進されるわけではないことに気付きました。
 そこで平面計画では、別棟とした小学校と交流館を「中庭」に面して向かい合わせ、それぞれが共有する室は中庭を囲むように設置することとしました。中庭を挟んで互いの活動が垣間見え、賑わいが伝わり合う適度な距離感こそ、合築のあり方の一つの“解”なのではないかと考えたのです。共有して使いたいときはオープンにし、個別利用の際はクローズにするなど、この中庭が緩衝帯となって各自で距離感を選択できるようにしています。これも、地域の方や子どもたちの活動内容、交流のあり方をWSで聞けたことがヒントとなりました。


[左]教室土間(小学校)/玄関代わりの「土間」を設けることで、教室から直接グラウンドに行くことができる。 [右]教室(小学校)/教室は中庭から離して配置することで、落ち着いた学習環境を確保。高窓が採光性を高め、ドラフト換気を促す。 写真提供:株式会社東畑建築事務所(左右共)


棟ごとにテーマカラーの異なる案内サイ ンを設置し、作手の昔話や動植物をモ チーフにしたイラストで学年・部屋ごと に異なるサインを作成。

 共育の拠点となるこの施設は、作手の新しいシンボルにもなります。誰もが気軽に立ち寄れて、居心地の良い、みんなの「家」となるような施設を心掛けました。外観デザインは、地元産スギ材で設えた壁や同じ勾配で統一した切妻屋根とすることで、作手の豊かな山並みになじむようにしました。また、軒の高さを揃えることで、複数棟に分かれている建物を一体感のあるものにしています。さらに、各教室には、家に入ってきてもらうような感覚で玄関を兼ねた「土間」を設けました。この土間は、日射熱を蓄積して放射し、外気から教室を守る役割もあり、夏は冷涼で昼夜の寒暖差が大きく、冬は寒さが厳しい作手の気候に対応するメリットがあります。その他、教室や廊下に設けた高窓による採光の確保とドラフト効果を利用した自然換気や、深い軒による日射のコントロールなど、環境に配慮したデザインを取り入れながら、室内環境の居心地の良さも追及しています。


[左]サロン(交流館)/休憩や学習スペースとして利用されている。 [右]多目的会議室( 交流館)


共育の場づくりを通して生まれた連携が地域づくりに発展。

ランチルーム(小学校)/全学年が一緒に給食をとり、交流の場にもなる。 写真提供:株式会社東畑建築事務所

 小学校、交流館内にはそれぞれに共育を意識した空間が設けられています。その一つが「ランチルーム」です。旧作手村の時代から各学校にあったランチルームは、親子給食会や地域の方との交流給食会などが行われており、作手で育った卒業生なら誰でも楽しい思い出がある場所です。新校舎のランチルームもそんな交流空間になることを意識し、親しみが感じられる特徴的な構造の外観にしました。その形状から子どもたちに親しみを込め、“プリン”と呼ばれています。
 小学校と交流館で共有することになった「調理室」でも、作手の料理人や食に関わる仕事をする人たちによる調理部会が、子どもたちを対象にした料理教室などを定期的に開催しており、「食」を通した共育が進められています。


ランチルーム外観/シンボリックなプリン型の外観。右隣は体育館。

 また、作手地区は「あめんぼ読書会」という読み聞かせ活動をするグループもあるほど図書活動が盛んなエリアです。そこで図書室の設計にあたっては、図書室とパソコン室を一体化した小学校の「メディアセンター」と地域の「図書室」を、廊下を挟んで隣接させ、相互に行き来ができ、交流や情報交換などが行える配置としました。さら、“作手らしい図書館”について検討した地域や子ども達のWSを経て、読み聞かせスペース、くつろぎや交流のスペースを重視した、家具選定とレイアウトとしています。


メディアセンター(小学校)/奥にパソコンスペースを確保。 カウンター・書架・イス:平湯モデル図書館家具 写真提供:株式会社東畑建築事務所



図書室(交流館)/読み聞かせのスペースを設け、ゆったりくつろげるソファなどを設置。


 図書活動に並んで作手地区は音楽活動も活発です。そのため当初から交流館にホールの設置が計画されていました。作手には、すでに複数の多目的ホールが存在していましたが、音響設備の整ったホールはなかったため、プロの演奏会にも利用できるホールをつくりました。異なる機能を持たせることで、新しいホールも既存のホールもそれぞれ活用されるように配慮しています。この新しいホールには、住民有志が寄付金を集めて
寄贈したグランドピアノが設置され、完成記念イベントでは演奏会と新校歌が披露され大盛況でした。


ホール(交流館)/音響効果を整えたホールで合唱する子どもたち。 写真提供:株式会社東畑建築事務所


 新城市では作手小学校を「共育学校」と位置付け、作手地区での共育活動がモデルとなって広がっていくことを期待しています。今回のプロジェクトの最大の特徴は、作手地区のあらゆる人たちが「共育の場づくり」に参加したことです。しかも、実施した多様なWSは完成までのプロセスに止まらず、供用開始後の利用者や運営組織づくりを見据えたものとなっており、調理部会、図書部会、音楽部会といった活動組織が互いに連携を生み出し、充実した地域活動へと発展しています。
 ソフトとハードが並走することで誕生した「作手小学校」と「つくで交流館」が、作手地区の共育拠点となり、今後地域の笑顔と元気の原動力となることを楽しみに思い描いています。


作手小学校・つくで交流館
所在地:愛知県
施主:新城市
設計・監理:株式会社東畑建築事務所



「SCENE 92」2017年12月1日発刊より


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