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平湯文夫先生の本が、雑誌「図書館界」の中で塩見昇先生に紹介をされました。

 平湯文夫先生が2024年1月に刊行された「生資料で読む 長崎図書館づくり物語」が、日本図書館研究会が5月に発行した雑誌「図書館界 Vol.76」の中で新刊紹介されました。
 紹介文は元・日本図書館協会の理事長であり、現大阪教育大学名誉教授、元・日本図書館研究会理事長の塩見昇先生によるものです。
 以下に同記事の全文を転載させていただきます。


 九州・沖縄を中心に、長年にわたって図書館づくりの動き、運動の火づけ役、励まし役を精力的にこなしてこられた平湯さんが、その活動の集大成といってよい大著をこのたび出版された。本文750頁の百科事典一冊分に近いハードカバーの大冊で、手づくり自費出版ということだそうで、太変な労作であり広く紹介の意欲をそそられる著作である。
 わずかの紙数で紹介するのはとても難しい本であるが、あえて一言で約言すれば、著者が4~50年にわたって重ねてきた図書館づくり(今回はその中で地元の長崎にしぼってであるが)の活動と図書館をめぐる状況を、ご自分の活動史を背景にして様々な資料を通して描き出した、きわめて個性的で土着性に富んだドキュメントである。
自らが執筆した文章や解説資料,講演等の配布資料等を軸にして、新聞の報道記事や囲み記事、雑誌やミニコミ、運動体の会報などをふんだんに取り込み、かつては全国最下位にあった長崎の図書館が、ようやく中位くらいにまで「躍進」してきた跡を、公共図書館、県立図書館と県図協の変貌、子ども文庫と子供の本・読書をめぐる動き、学校図書館への動きの波及、自らが手掛けた純心女子短大の司書課程をはじめ図書館員の養成、図書館を活かす部屋づくりや家具づくり等をテーマに紹介している。膨大な新聞記事が手際よく取り込まれ、成長していく図書館の展開の跡がよくわかる。
 元々の本書の狙いは、著者が1979年に提唱した「九州・沖縄の図害館づくり」を対象にこの手法で資料を整理しようとしたが、あまりに膨大なものになるので、まずは足元の長峙にしぼって、ということで本書になったという。図書館「後進地」の九州・沖縄に図書館の火をともそうと著者が思い立った基点については「図書館維新の50年」と題した前書きの冒頭の一文がよくそれを表している。
1965年,今から60年近くも前、東京の日野市で日本の図書館の革命が始まってから、8年前の2015年、学校司書の配置が法制化されるまでのちょうど50年。この50年は、日本の「図書館維新の50年」といってもいい、大切な50年だと思います。
 「図書館は、平和と民主主義の最大のインフラだ」と確信する著者は、各地の思いを同じくする知友や仲間に呼びかけ、賛同者を募って「九州・沖縄図書館づくりセミナー」を菫ね、貴重な足跡を残してきた。自らも多くの資料を作成して各地に発信する一方、全国からも各地の状況を伝える資料が寄せられた。その膨大な資料をどうしようか、というのも本書の企画につながったようだ。なるほどこういう整理の仕方もあるか、このような残し方もありだなと感心させられる本書の構成になっている。
 こんな本づくりを考えているがどう思う、という手紙を著者からいただいてかなり時がたったが、それがこの大著になってびっくりした。平湯さんの手書き文字は非常に特徴のある、一目でだれが書いたかすぐわかる字である。その手書き文章や、活字の文章に彼の特徴ある文字で書きこまれた感想や訂正などが加わった文書も随所に資料として挿入されており、決して読みやすくはないが極めてリアルで生々しい記録になっている。
 収録資料には新聞記事が最も多いだろうが、図書館関係誌や運動体の会報、集会の案内チラシや配布資料、参加者の感想等々、実に多様で、それらに著者の感想やコメントなどがいろいろ書きこまれていたりで、著者自身が「反省」として書いているように、「この本は、私の身辺にあふれる新聞や雑誌やチラシなどの記事に最小限の私のコメントを加えて、私個人でつくってきたものです。……私の手元に残る資料以外のことが漏れてしまい……私の身近なことが多くなってしまいます」というのは当然のことだろう。それが長崎における「図書館づくり」の生のドキュメントを味わわせてくれて実に貴重で面白い。「九州・沖縄」までを対象とする続編を平湯さん個人に求めることはあまりに酷だが、各地の県図協などがこういうドキュメントを編んでくれたらいい仕事になるだろうな、と思った。ぜひ多くの方の目にとまり、購入もしてほしいと願う本である。
塩見 昇



塩見 昇(しおみ のぼる)氏 大阪教育大学名誉教授、元・日本図書館研究会理事長
略歴:1937年京都府出身、京都大学教育学部を卒業後、大阪市立図書館司書、大阪教育大学講師、同大学教授、同大学附属図書館長、大谷女子大学教授を経て、日本図書館協会理事長(2005年~2013年)を歴任。2016年春 瑞宝中綬章を受章。

日本図書館研究会
日本図書館研究会は1946年11月に創設された研究団体。その目的は「図書館学の研究とその普及発達を図ると共に会員相互の親睦をあつくすること」にある。
所在地:大阪市西区江戸堀2-7-32 ネオアージュ土佐堀205号室
電話・FAX:06-6225-2530
E-mail:nittoken@ray.ocn.ne.jp

掲載誌「図書館界」
日本図書館研究会の公式学術雑誌。隔月で刊行、年間平均約400頁。オリジナルな学術論文、書評、新刊紹介、また本会の行事案内・報告、理事会報告、会員からの声など、幅広く掲載。



平湯文夫編著 「生資料で読む 長崎図書館づくり物語」についてはこちらからご覧ください。


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