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「学校図書館被災記録 平成28年 熊本地震」に平湯文夫先生の寄稿文が掲載されました。

 平成28年4月14日および16日に発生した熊本地震では、多くの尊い人命や約20万棟に及ぶ家屋が被害を受けました。その中で高等学校の図書館も甚大な被害を受けており、学校教育の中心を担う施設として、今後の防災対策や環境整備が求められます。
 当冊子は熊本県高等学校教育研究会図書館部会が中心となり、被害の実態を調査してまとめ、今後の対策に生かすために冊子として残すこととしたものです。
 
 発行日:平成30年3月8日
 発 行:熊本県高等学校教育研究会図書館部会
     熊本県高等学校文化連盟図書専門部
 事務局:熊本県宇土高等学校内 Tel.0964-22-0043
  ※冊子についてのお問い合わせは、上記事務局までお願いいたします。


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被災の状況を生々しく伝える多くの写真と、熊本県下の高等学校(対象90校)のアンケート調査を基にした実態調査、専門家の分析を加えた今後の対策などが、客観的な視点で詳しくまとめられています。

※当調査において、平湯モデルタイプの書架の被害が極めて低いことが分かり、その設計者である平湯文夫先生に寄稿を依頼したとのことです。以下に寄稿文を掲載いたします。

平湯モデルが地震に強いわけ

図書館づくりと子どもの本の研究所
平湯 文夫

 まず被災なさった方々への心からのお見舞いと、図書館員の方々の想像を絶するご苦労へのねぎらいを申し上げます。その中での『被災記録集』へのとりくみには敬意のほかありません。
 熊本県の学校司書のTさんから電話がありました。「これまで、平湯モデルには、デザインへの憧れが強かったのですが、今回の地震を経験して、被害状況が他社のものと全くちがうことにみんな驚いています。デザインだけでなく地震の防災のことなども考えて設計されていたのですね」と言われて、とっさのことに「そうですよ」と答えてしまいました。
 うそではありませんが、いざ書くとなってちょっと困りました。平湯モデルは、耐震のことだけ切り離しては書きにくいのです。そこで、せっかくみなさんに平湯モデルに関心を寄せていただいたのですから、この際、平湯モデルのそもそもについて書かせていただけたらと思っています。
 私は、現役時代、毎年、40名ほどの図書館コースの学生たちに教えるに先だち、「私の読書体験、図書館体験」というレポートを書かせました。これは大変勉強になりました。その中に、「小学生のとき、学校図書館の見上げるような高書架の前に立つのがとても怖かった」というのがいくつもありました。こんなことを考えて学校図書館を計画、設計、購入する行政の方や設計者や図書係の先生や司書がどれだけおられるのでしょうか。
 松居友さんは、「子どもは神様だからなんでも分かっているのです」と言っておられます。垂直に立った高書架の前に立つと、それが地震のことなど分からなくても、なにか怖いのでしょう。成長するにつれて、いろいろ知恵もついて、それほど怖くなくなっていくのでしょうが、小学生が感じたことは、とても大切なことだと思います。高校生にだって、大人にだって2mもある垂直立の高書架は決して心地よいものではないはずです。


  写真Ⅰ

 私は、子どもの、いろいろ知恵のつく前の純粋な感性はとても大切なものだと思って生きています。それで、既成の書架は、ほとんどすべてとても受け入れられません。その結果、「写真Ⅰ」のようなものになってしまうのです。
 6段ないし7段の、高さ2m、横1800、複式4連の垂直の高書架には、やっとかかえあげられるほどの段ボール箱、20数箱分、ざっと半トンの本がつまっています。それがどれほど重いものか分かっていたら、既成のような高書架が設計も販売も購入もできるはずがありません。地震がきたら、揺れの方向によって、本がほとんど落ちてしまうか、書架ごとグシャッといくかしかないと私には感じられます。そういうことから写真Ⅰのような平湯モデルになるわけです。
 スチールをネジでとめたり、天板をつないだり、だぼに棚板をのせたぐらいで、何トンもの本を載せた書架が大丈夫なはずがないと思った人が、地震大国日本の図書館関係者の中に一人もいなかったとはほんとうに残念なことです。

平湯モデルの書架は、壊れることも、倒れることも、本がおちることもないはずです。

 まず第一に、すべての部材にほぞやだぼも使って接着し、ビスでしめつけた平湯モデルは、地震ぐらいでこわれることはありません。そして2番目に、低いうえに底辺が広いのですから、重い本が乗ったら安定性はさらに高まり倒れることもありません。3番目に、全段8度の傾斜がつけてあるので、最上段以外ほとんど本は落ちません。これで、耐震性はほぼ万全のはずです。
 3番目の、本がおちないということは、大変重要なことです。書棚が壊れず、倒れなくても、本が大量に落ちたら、避難路が断たれますから重大です。子どもや老人は大変です。
 さらに、余震などしょっちゅうある地域では、日常的に本が落ちて困るのに、平湯モデルは落ちないので助かるという話もききます。
 この平湯モデルの耐震性については、すでに数年前、耐震試験の装置のある大学の建築学の教室で注目していただき、私どもの方でも書架の提供などの協力をして、阪神淡路大震災の揺れを再現して、実験していただいたことがありました。そして、スチール書架と他社の木製と平湯モデルの3点で実験していただいて、平湯モデルが断然耐震性が高いことを実証していただいていました。
 その後さらに、専門の研究機関に依頼し、東北地方太平洋沖地震に対するシミュレーションを行って、平湯モデルの耐震性能の高さを重ねて証明していただきました。

平湯モデルは、民芸学の柳宗悦の「用の美」にならったものです。

 「用の美」とは、無数の民衆が、何千年も何万年も使いつづける中で、使いやすく、安全で、丈夫で、安価で、人々を心安らかにしてくれるものとして磨きあげたものということです。「かわいい」とか、「目新しい」とか末梢神経を刺激するものが巷に溢れていますが、「用の美」はそんなものとはちがいます。これにかなうものはなかろうと、世界で初めて民芸学をうちたてた柳宗悦はすごい人だと思います。一人のデザイナーなどが一人の才能で思いついたものなどたちうちできるはずがありません。大変おこがましい言い方ですが、平湯モデルは「用の美」をめざしています。使いやすく、安全で、丈夫で、それにしては安価で、人々を心安らかにしてくれるものとして、磨きあげたものですから、人々を恐怖におとしいれることはないと思っています。
 地震がつづいて耐震のための手だてがいろいろ考えられているようです。ずいぶんお金もかかるようです。私は、平湯モデルのままでなにもいらないと思っています。「用の美」には安全性から経済性まですべて含まれています。

平湯モデルの「用の美」についてもう少し書かせてください。

 平湯モデルは「用の美」をめざすのですから、人々の心をやすらかにしたいものだと思っています。その私には、図書館に入って、前にそびえる直立の高書架はもうがまんできません。奥に楽しいところがあっても見えません。それで、平湯モデルの床置き書架は、すべて視線をさえぎらぬ高さにおさえてあります。


写真Ⅱ 視線をさえぎらぬスリムな書架で全館見通せるのはこんなにすてきです。それで、一般書で5段、文庫・新書で6段が確保されています。

 ですから、図書館に入ったら、全館見とおせます。全館見とおせるって、まず、利用者にとってどんなに気持ちのいいものか体験していただくと分かります。図書館員にとっても、大切なサービスが断然しやすい。そして管理もしやすい。「写真Ⅱ」をご覧ください。
 そう言うと、みなさん、そんなに低い書架では本が収蔵できないと思われるようです。あまりに低くてスリムだから、半分くらいしか置けないと思われるようです。大丈夫です。従来の2メートルもある高書架が6段なのに、平湯モデルでもしっかり5段は確保されています。6段が5段になることは、17%少なくなるだけです。17%ぐらい、書架がスリムになった分をはじめ、レイアウトの工夫などでわけなく補えます。ちなみに、子ども用の書架は、他社のものは、どれもすべて3段なのに、平湯モデルは4段ですから、33%も多く配架できるのです。
 たった1段少なくするだけで、2メートルが50センチ以上低くできるヒミツは、天板をなくしたことと棚板を固定したことにあります。
 そういうとまた、「棚板固定は困ります。NDC順に並べられません」、と言われます。しかし、完全にNDC順に並べられる書架を置いた図書館などどこにもないはずです。実際の公立図書館でも、7類と料理などの家事関係以外の棚は、全段B5まで立つ棚高に揃えて、A4以上は大型本の棚に別置しているところが多いはずです。平湯モデルの棚は、1連90センチの中に少なくも1段だけは、目につきやすい高さの段にA4(9類用ではB5)の立つ棚を設けています。A4の本はけっこうありますから、別置してしまうのは、かなり乱暴だと思うからです。平湯モデルでは、どこの図書館よりもNDC順配架を大切にしているつもりです。
図書館員には、NDC(請求記号)順配架を至上万能のものと思いこんでおられる方が少なくないように思います。しかし、研究図書館や都道府県立図書館などは別にして、学校図書館や市民の図書館では、NDC順配架に、スーパーのようなディスプレイによって資料そのものが呼びかけてくる力を加えることは不可欠と思っています。利用者の多くは、通常、3段ラベルの請求記号などあまり気にしていません。日常の利用では、書棚を眺めまわして、いい本にめぐり会うことが多いはずです。請求記号順配架が気になるのは、図書館員の方ではないでしょうか。図書館の主人公である利用者がめぐり会いやすいようにすることこそ大切です。
NDC順に配架するには、ラベルは分類を示す1段だけで十分です。3段ラベルで著者名の隠された本を見るのは、人に会っている間中マスクをしたまま一度も顔を見せてもらえなかった時のようにいらだたしいものです。

8度傾斜の、折れていない同一平面で迫ってくる書架は、すっきりと気持ちいいはずです。

 書架を低くしたら、次は傾斜をつけることです。書架の1,2段目を見やすくするためには、いろいろ工夫が試みられてきました。まず、最下段だけ傾けたものです。そして、1,2段だけ大きく傾けるいわゆるスカート型は全国にかなり普及しました。その後、車椅子が普及するようになって、通路が狭くなる、上段に手がとどかないなどのことから、傾斜がゆるめられたりしました。1段目にあたるところは使わないように設計したところまであります。
 私はこれらはとらず、全段を8度傾斜させる方法をとりました。2メートルの高書架に8度の傾斜をつけたら通路がかなり狭くなりますが、平湯モデルでは足元でせいぜい32センチほど狭くなるだけです。それも、上にいくほどスリムになるので広くなり、目の前はなにもなくなって、視界は全館に開けます。さらに、スカート型のように中折れもなく、全段同一平面で迫ってくる迫力はすっきりと気持ちいいものです。そして最下段までふしぎなほどよく見えるのは驚くほどです。このことは、幾人もの方から言っていただきました。ぜひ体験してみてください。

さらに、天板をとるとぐっと低くなって、最上段にすてきな本の花が咲きます。

 書架の天板(トップ)をとり、さらに、側板の最上段分の高さと奥行きを、B6の本より1センチずつ短くすると、どの方向から見ても本が顔を出します。そのことを私は、「本棚に本の花が咲く」といっています。床置きのすべての本棚の最上段に本の花が咲くことは、図書館にとってすばらしいことです。天板をなくすと埃がつもるとか、配架表示ができなくなるとかいうのは「市民の図書館」以前の感覚です。

そのほか、平置きの棚を設けたり、棚の中に中仕切りをしたり工夫がしてあります。

 絵本架の平置き棚は、置くだけでディスプレイになり、1連90センチの棚に2枚の中仕切りがあることで、薄くて倒れやすい絵本が倒れにくくなり、断然利用しやすく整理もしやすくなります。一般書架にも1枚の中仕切りがあることで、本が倒れず、わずらわしいブックエンドやブックサポータも使わず、書架がきちんと整い、地震でも落ちにくくなります。
 そのほか、木の中でも、あたたかく、優しい樹種を選んで使い、塗装にも気をつかっています。
 このようにして「用の美」の書架ができあがって、地震にも強いものになっていたということになります。

平湯モデルでも壁面高書架の本は落ちます。でも、落ちてしまうと書架は倒れにくくなります。

平湯モデルの耐震性はほぼ万全と言いたいところですが、大きな問題も残っています。壁面高書架が、傾斜なしの直立で、おまけに、展示型であるため、棚の奥行が浅く落ちやすいのがどうすることもできないのです。本がのったまま倒れたら文字どおり致命的ですが、本は落ちやすいので、書架は倒れにくくなり、致命的ではなくなるはずというのが現在の正直なところです。床置書架に比べると壁面高書架は少ないし、全館平湯モデルなら、「地震のときは壁から離れなさい」と指導するだけで、避難は容易です。
万全ではありませんが、棚板の手前にすべり止めのテープは貼ることにしています。

熊本県には平湯モデルを入れていただいているようですが、全館平湯モデルというのはまだありません。

 熊本の学校司書の方たちが、平湯モデルに関心をもっていただいて、単品ではけっこう入れていただいているのは嬉しいことです。そのおかげで、平湯モデルが地震に強いことも実証されました。
 しかし、一館全体に計画されてできたところは多分一館もないのは残念です。全館で計画されてはじめて平湯モデルはそのよさを発揮しますので、ぜひ実現してほしいものです。全館ではありませんが、増築の山都町立図書館で平湯モデルを見ることができます。
(実は、熊本県でも、ずいぶん広いスペースをいただいて、りっぱな平湯モデルの図書館を計画、設計させていただいたところがあります。ところが、できてみると、勝手に、平湯モデルでいちばん大切な棚の高さを高くしてしまい、奥行も深くしてしまって、平湯モデルを台なしにした図書館ができていました。)
 平湯モデルづくりには、悲しいこともありますが、嬉しいことが断然多いです。地震に強かったという知らせも、こんな文章を書かせていただいたことも。ありがとうございました。

   「どうしたら親しみがもててここちよいものがつくれるか」
    ウォーレン・マッケンジー
    柳宗悦やバーナード・リーチの流れをくむ米国の陶芸家である彼が、
    制作にあたって一貫していたのがこの姿勢であったという。


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