研究所だより

平湯文夫の研究所だより No.98


私の図書館の話を7時間20分も聞きつづけてくれた人たちがいました。

 この「研究所だより」の96・97でとりあげた「お話の会」の人たちの、私の話を「もっとたっぷり聞きたい」という信じられない申し出がほんとにおきてしまいました。特に、図書館にかかわることもない、20(?)代から70代の方たちが6名、私の書斎にほんとに押しかけてみえたのです。そして、なんと、朝の10時から、午後の5時20分まで7時間20分、みっちり、私の図書館の話をきいてもらい、また熱心に語り合いました。そして、帰りには、「また来てもいいですか、これをつづけていいですか」と言われるのに驚きました。
 図書館の話は、かぎりもなくおもしろく、深い、と私は思っていますが、私の図書館の話を、そんなに、いくらでもききつづけたいと思っていそうな人を私は、感じたことがありません。
 私が接するどの人たちよりも知的な人たちのように思いました。図書館の話にふれることが 少ない人たちだったので新鮮だったのでしょうか。


親族の系図など4時間半も、私にたずねつづけた若者がいました。

 従姉が百歳で亡くなりました。その出席者の中でも、私がほとんど最高齢で、親族の系図などきく人が多く、聞かせてくれる人はほとんどいなくなっていることに気づきました。私の次の世代以後がほとんどで、私が知っていることも、私と共に消え去るのかと思っているところへ、思いがけなく、頼もしい若者が現われたのです。亡くなった従姉の孫で、建築を学んでいることから、ネットで平湯モデルに関心をもって、後日、私の家を訪ねてきたはずのが、そのことは印刷物など渡して終わり、親族の系図など熱心にたずねつづけました。
 まず、系図をつくってくれるそうで、それをもとにして、みなさんに思い出など書いてもらい、写真なども持ちよって、印刷物にしようという話にまでなりました。文章や写真のつまったB6、100頁くらいの小冊子にでもなったら、これは親族のみなさんにずいぶん喜ばれるだろうと楽しみになりました。
 図書館の歴史を知ることも、親族の歴史を知ることも、生きていくアイデンティをつくることです。思わぬところから、嬉しいことが二つつづきました。図書館計画でも、学校図書館には、「学園のコーナー」を、公立図書館には「郷土のコーナー」をしっかりつくるようにしているのも、子どもたちにも住民にもアイデンティティをつくりあげてほしいからです。


 今、家族の写真の整理をしています。3歳10か月の私の写真です。「昭和13年4月1日写す」とありますから、3年後に小 学校入学、その年の12月8日に太平洋戦 争開戦。叔父から贈られた軍服ですが、こ うやって、小学校高学年の頃にはしっかり 軍国少年にできあがっていました。こわい ことです。


つたやに委託された図書館のお粗末さがマスコミでも次々ととりあげられています。

 2年前に、武雄市図書館ができたときから、私たち図書館仲間では、みんな、「あれは図書館じゃない」と言いきっていました。それでも、にぎわいぶりだけを見た軽薄なマスコミが、もてはやしているようなところもありました。それをやった市長さんのファンの首長さんたちもけっこうおられるのです。マスコミの報道はつづいています。週刊誌でもラジオでも。愛知県小牧市など、住民投票までやって、大差で、結局やめることになったようです。
 これほどお粗末なことを平気でやる業者、それをとり入れる首長さん、それに共鳴する首長さんたち、こんどの、テレビや新聞の報道を見て少しは考えていただけるのでしょうか。私たち図書館人や市民が、50年をかけてつくりあげてきた(ほんとうは人類が何千年もかけて)かけがえのないわが国の図書館をゆるがす首長さんは、なにも特別な首長さんだけではありません。知らぬ人はいない、石原元都知事も、橋本元大阪府知事も、ひどいことをやってくれました。どんなことをやったか。その内容はまたいつか。
 首長さんや議員さんたちの、図書館についての認識の浅さはもちろん困ります。しかし、自治体直営、正規職員による図書館の中に、ずいぶん不勉強で、お粗末なサービスの図書館(員)が、決して少なくない実状も重大な問題です。


全国図書館大会に参加し、東京の区立図書館などたずねました。

 日本図書館協会も近年様変わりし、気ぬけしたようなところもありますが、一方、図書館人ではない、図書館を育てる市民がしっかり育ってきていて、充実した分科会などもあり、たのもしいものがありました。日本の図書館は、ひと頃の高揚期は失せたようですが、決して衰退しているのではなく、発展していると見るべきなのでしょう。
 今回も東京の公共図書館をいくつか訪ねました。さすが東京、一部新しい試みもあるものの、日本をリードしてきたはずの東京の図書館としてみれば、期待はずれがほとんどです。私のテーマであり、ひとまわりするだけでおよそ分かってしまう施設面中心で見ても、あまりにお粗末です。新しいものもそうなのですから残念です。行政もですが、現場図書館員も建設や運営にかかわる研究者にも見識のある人がいないのだと思います。


この記事は、2003年7月1日から平湯文夫先生が自身のホームページ「図書館づくりと子どもの本の研究所」に掲載した研究所だよりを再編集して転載したものです。


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