研究所だより

平湯文夫の研究所だより No.004


新しい仕事場のことや奄美行きのことなど。 

 研究所といっても、常勤のスタッフは、私と私のパートナーの2人だけ。しかし、私がやってきたこと、やろうとしていることに関心をもっていただいている全国の図書館員や学校の先生方や市民のみなさんも私の方で勝手にスタッフのつもりでいます。そしてオフィスは私の自宅の書斎で、そこが仕事場です。研究所と相談室の電話もファックスもそこにあります。従って在宅でさえあれば、夜も休日も通じます。
 40年以上にわたって集めてきた資料の中から、当面いるものだけを選んで運んできて、機能性の高い資料架に効率の高い資料構成と道具だての仕事場をととりくんでいますが、しばらくかかりそうです。でも、できあがったらかなり仕事の能率アップができそうです。
 一方リビングには、壁一面にすっきり美しい書架を設けました。そこに、読みたい本、読みかえしたい本だけを選んで運んできて、所どころに思い出の品などもあしらって配架しましたので、本たちが一冊一冊粒立って迫ってくるようになりました。図書館にすすめていることもこのことです。忙しいときも気分転換にここで短時間ずつでも読書することにしました。
 新居はマンションの9階です。集合住宅に住んだ経験がないので、ほんとに暮らせるのだろうか、頭は働くのだろうかと不安で、旧居の書斎も使えるように残しているのですが、なんとか順応できそうです。
 眼下は長崎大学のキャンパス。時折、ちょっときかせるオーケストラの練習風景がきこえてきます。散歩に、練習しているところを探してみようということになりました。暗がりのキャンパスを「フィンランディア」の曲の音をたよりに探しあてました。入口近くにいた学生に、「近くに住む者だけど、中できかせてもらっていいかな?」とたずねると、嬉しそうに「どうぞ」と中へうながしてくれました。長崎大学や活水大学や純心大学の学生によるオーケストラでした。
 近頃の学生はこんなにうまいのかと感心していたのでしたが、どうもOBもかなり加わっているようです。練習風景にはまた一種の味わいがあってけっこう楽しいひとときをすごしました。先ほどの学生は、帰るときも嬉しそうに見送ってくれました。帰り道、発表会のことなどきけばよかったと、学生が喜んで教えてくれただろう様子など思い浮かべました。
 9月中旬、いくつもの中央大手メーカーとの厳しい競争の中、提案したプランを採用していただいた奄美T町の図書館の打合わせに南へ飛びました。2日間の打合わせは順調に終ったのですが、台風接近で空も海も欠航。観念するしかなく、この機会だと、専門や仕事からはなれて読みたかった本を図書館から借りてホテルに籠りました。
 台風に閉じこめられた2日間、こんな至福の時をもったの何年ぶりでしょう。読書を広げる仕事を専門としながら、読むものは仕事に必要なものばかりで、読書の醍醐味とはほど遠いのです。新しいリビングの読書で、この醍醐味をなんとか復活させたいものです。ではまた。



この記事は、2003年7月1日から平湯文夫先生が自身のホームページ「図書館づくりと子どもの本の研究所」に掲載した研究所だよりを再編集して転載したものです。


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